アン・タイラー French Braid 感想



アン・タイラーによる2022年の小説、French Braidの感想です。

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2022年の作品です。出てすぐに読んだのですが、感想を書き忘れておりました。

このたび再読したところ、1回目では気づかなかったところも多くあり、やっぱりアン・タイラーすごいな、としみじみしている次第です。

あらすじ

著者が一貫して物語の舞台とし続けるボルティモアの田舎町で暮らすある家族のおはなしです。大きな事件が起こるわけではなく、水面に投げた小石の波紋がゆっくりと広がっていくように、個人個人の言動が世代を越えてほかの家族に影響を与えていく。痛みもあるけれど、優しさもある。

テイストは違うけれど、やはり大好きな作家、エリザベス・ストラウトの紡ぐ物語に通じるものがあると感じます。最新作にコロナ禍の状況が描かれているのも共通点です。

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Goodreadsのレビューを読んでいると、今回は三きょうだいの母親であるMercyに共感できるかできないかで点数のつけ方が大きく変わってくるようです。

ここからネタバレあり(タップで開く)
Mercyは専業主婦として三人の子を育て上げました。末っ子のDavidが家を出たタイミングで自分も家を出て、絵を描くことを生活の中心に据え、家族のために生きるのではなく、これからは自分のために生きていこうとします。

子供たちが過去を振り返り「テーブルの上は絵具が散乱していたしバランスの良い食事を与えられた記憶もない」と言うように、Mercy自身が家族に尽くしてきたと思っている割には、家族から見るとそうでもなく、現在のエピソードとして語られる預かった猫への対応からも、むしろ家庭向きの人ではなかったんだなということがよくわかります。

Mercyの母親らしくなさ、家族をつなぐハブとしての役割を放棄して自分のためだけに生きる自分勝手さが受け入れられず、この物語を好きになれない読者も多そうですが、それこそが著者の書きたかったことではないのかと感じました。

そんな、大多数に受け入れられ認められるようなすばらしい生き方なんてできない人はたくさんいる。

彼女の自己中心的な生き方は、娘たちを傷つけた面もあったかもしれないけれど、孫娘の心を救いました。
Mercyと孫娘の時間の描写がいちばん好きだった。

それから末っ子Davidの年上妻Greta。初登場の印象は最悪だったし、それ以降も家族に溶け込んでいる様子もなかったけれど、彼女の率直さがRobinとMercyを救いました。

家族のだれもが不完全だし、いいところも悪いところもあって好きだけど嫌い、傷つけたり傷つけられたりして、それでも、人生のところどころで関わり合いながら、ふとした一言で救われたり、優しさを交換しているものだなあ、としみじみするのです。

直近で読んだ著者のRedheadがわりとほっこり話だったので、油断していましたが、著者の作品はハートウォーミングではあるけれどこまかな擦り傷をたくさん負う読書体験になるということを忘れていました。私自身の家族とのあれこれを思い出しながら、自分自身を癒す時間をつくらなければ、と思います。

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