アン・タイラーの本だけは、新作情報を見かけたらすぐに、Kindle版を予約購入しています。
買うか買わないかを迷わずに即、購入ボタンを押すのは、彼女の作品が常に素晴らしいから、そして、1941年生まれの彼女の本をあと何冊楽しめるかわからないから。
今回の作品は短くて、彼女の作品の中でもあっさりとしたテイストですが、とても心に残る物語でした。
紙の本だと、192ページくらいで、ボリュームも少なく、読みやすいです。
Audibleの無料体験を利用してオーディオブックを入手し、活字を追いながら聞きました。
ナレーターの男性の声がとても聴きやすいうえ、登場人物のセリフを読み分けてくれるので、今誰がしゃべっているのかがわかりやすくてとてもよいです。
日本語版も出ました!(2022年3月)
あらすじ
主人公は40代の独身男性、Micah Mortimer(マイカ・モーティマー)。
アパートの地下室で暮らし、「テック・ハーミット」という屋号でパソコンまわりの何でも屋さんをして生計を立てています。
規則正しい生活を愛していて、毎日をきっちり決まった「ルーティン」に沿って暮らす彼は、毎朝7時15分に走りに出て、曜日ごとに決まった家事をする。木曜日は「キッチンの日」、金曜日は「掃除機の日」というように。
結婚はしていないけれど、彼女はいる(彼は決して彼女のことを「ガールフレンド」とは呼ばす、「ウーマンフレンド」という呼び方を使う。30代後半の女性のことを「ガールフレンド」とは絶対呼びたくないらしい)。
家事のスケジュールにものすごくこだわったり、料理中に外国語風のひとりごとを言ったり、「ガールフレンド」という呼び方を拒否したりするあたりで、マイカのちょっと変わった人となりがわかるのですが、本人はいたって真面目に暮らしています。かっちり決まったスケジュール通りに、平和に過ごしています。
ところが、ある日、そんな彼の生活に小さな変化が起こります。
恋人のキャスが、住んでいる部屋を追い出されそうになり、彼に相談の電話をかけてきます。
さらに次の日には、彼の息子だと名乗る少年が突然彼の部屋を訪れます。
判で押したような生活が、一気に波立つ。
会話の多いストーリーです。
マイカと、パソコンまたはネット環境にトラブルが起きて困っている彼のお客さんとのやり取り。
マイカとキャスの会話。(仕事の話ではそうでもないのに、プライベートのキャスとの会話になると、たちまちマイカのちょっと変わったキャラが表に出てきます。)
孤独な生活を好んでいるマイカとは対照的な、彼のにぎやかな家族たちとの会話。
たくさんの人とのやりとりを通して、マイカの抱えている問題点が読者には少しずつ見えてきます。マイカ本人は全然気づいていないのに。でも、彼がとても善良な人柄なのだということもよくわかる。なんとかうまくいってほしいと、読み手はやきもきしはじめます。このあたりが、アン・タイラーのすごく上手なところだと思います。
ドラマチックな出来事、あっと驚く展開があるわけではないのですが、くすりくすりと笑っているうちに、じわじわと心にしみてきて、幸せな気持ちになる作品です。
積読の中から、次はこれを読む予定です。