A Lonely Girl is a Dangerous Thing by Jessie Tu 読了



A Lonely Girl is a Dangerous Thing、読み終えました。
2020年の夏に、オーストラリアで出版された作品です。

好きなブロガーさんが2020年のベストブックリストに入れていた作品で、サマリーを見てどうしても読みたくなったのですが、なんと、海外からの電子書籍購入が封じられています。壁を越えて強引に入手しました。上のリンクはBookDepositoryの商品ページで、一応日本から購入はできるし海外送料はかからないのですが、本体が4000円オーバーです。高いですね…。

ベストセラーになったThe Rosie Projectなんかも、もともとはオーストラリアで出版されて、人気が出てUSやUKの出版社からあらためて売り出されたようなので、私から見るとどれも同じに見える英語圏の英語の本でも、実際は扱いが違うというか、国の壁があるんだなあと感じました。

The Rosie Projectを読み終えました。 The Rosie Project: Don Tillman 1posted w...

A Lonely Girl is a Dangerous Thingは、The Readings Prize for New Australian Fictionの2020年ショートリストに入った作品です。

この賞を受賞した作品はふつうにKindle版を買えるので、A Lonely Girl is~が海外で入手しづらいのは、出版社の意向なのかな…。

こっちもおもしろそうです。

ヒリヒリする喪失と再生の物語

この本のどのレビューを見ても、性の描写が多すぎるから、苦手な人は気をつけて、という注意書きがあるので、よっぽどなんだなと思っていたら、よっぽどでした。

主人公はアジア系(著者と同じ台湾がルーツ)の23歳の女の子Jena。かつては神童バイオリニストとして、世界を股にかけて活躍していましたが、14だったか15だったかくらいの時のある出来事をきっかけにいったんバイオリンから離れます。

大学を卒業した後、ふたたび音楽で生きる道を模索し始めるのですが、少女時代(子供らしくあることを奪われた環境での、厳しい練習だけの毎日、知らない間に破綻していた家庭)にむしばまれた心はまだ回復していないようで、性依存症のような状態。知らない相手と行きずりの関係を持つことで、自尊心をぎりぎりで保っていて、友人知人の恋人でも平気で寝取ってしまいます。嫌なやつです。

見境なく、その瞬間の寂しさを紛らわせるためだけに、どうでもいい人に体を委ねる主人公を見ていると、その痛々しさに同情しつつも、積極的に自分を傷つけにいくような彼女の態度に、だんだんイライラしてきます。実際に危ない目にも遭うし、相手から大切にされていないこともわかっている、でも彼女はやめようとしない。大切な友達も離れていく。

才能あふれる若いアジアの女の子と、年上の白人との肉体関係というところだけを見ると、衛慧の『上海ベイビー』などを思い出してしまったのですが、あの作品のような退廃的なナルシスティックな感じはこの作品のJenaには全然なくて、ドライで現実的で、ああ、21世紀の物語だなと感じました。

天賦の才と、その代償

読みながら思い出していたのが、少し前に見てのめりこんだ、ダンサー、セルゲイ・ポルーニンのドキュメンタリー映画です。

息子のバレエダンサーとしての才能を見出した母親は、彼の前途を開くために、できる限りのあらゆる手段を講じます。資金を捻出するため、息子の父親だけでなく祖母までも外国に出稼ぎに出なければならなかった。そういった家族の犠牲と期待に応えるために、少年はたったひとりイギリスへ行き、トップを目指します。彼の夢は自分が成功して、また家族が一つ場所で暮らせることだけだったのに、両親は離婚してしまった。彼の心には大きな穴が開いてしまいます。史上最年少で英国ロイヤル・バレエ団プリンシパルとなっても、コカインやタトゥー、にぎやかなパーティーも、彼の胸に空いた穴は埋められなかった。

幼いうちに才能を開花して、家族がそのためにすべてを犠牲にして支えて、確固たる地位を築いても、心には埋められない大きな穴があって、孤独の風が吹きすさんでいる。

私のような平々凡々な人間もそういう虚しさを抱えてはいるけど、手にしたものが大きければ大きいほど穴も大きくなり、飲み込まれてしまうのだろうか、と感じたのでした。

嫌な子だけど、嫌いじゃない

主人公Jenaの気持ちに寄り添えなかったら、この本を読むのはしんどいだろうなと思います。実際、レビューサイトを見ても評価の割れている本です。

私は彼女のことを嫌な感じだなー、絶対友達になりたくないなーと思いつつ、不思議と憎めず、結末を迎えるまでも、希望のある終わり方になるだろうという確信を持ち続けながら読むことができました。主人公はずっとしんどい状態にいるんですけど、不思議と重すぎず、カラッとしている。

何がいいのかなあと考えながら読んでたんですけど、こういう率直な描写に、思わず共感して笑っちゃうからかもしれません。

I was embarrassed. I decided I hated him for making me feel like that.

終盤に、Jenaにかけられた言葉もよかった。彼女自身もちゃんとこの言葉を受け止められた。

To be lonely is to want too much. And that’s fine. But it doesn’t mean you should let people hurt you.

なかなかしつこい性描写についても、著者にとっては必要な表現なのだろうなとも感じます。なんだかんだで肉体関係のありかたに、人間性がめっちゃ出てる。

男女格差・人種差別

この本に興味を持った理由のひとつは、シドニーに住むオーストラリア人の女の子の話なのに、トランプが大統領に選ばれた年のNYの様子が描かれていると知ったからというのがあります。

Cohen dead. Bowie dead. A racist becomes a president.

選挙の前は、みんな、史上初の女性大統領の誕生だね、とほがらかに話していたのに、選挙の結果が出た夜は、見る人見る人、町全体が嘆き悲しんでいた、とか。体格のいいセフレの男の子が、「夜遅く街を歩くのがこわいから今日は泊めてくれないか」と女の子に頼むところとか、外国人である主人公から見た街と人の描写がとてもリアルでした。

また、音楽界、アートの世界での男女格差についても、考えさせられるところが多いです。

後半になって、物語本体よりも著者の思いがあふれすぎているような部分もあったけれど、あまりにも当たり前の顔をして存在している差別は、受けている側でさえも気づけないことがたくさんあるのだろうと思います。

アメリカのベストセラーにばーん!と入る話題作を読むのも楽しいですが、こうしていろんな国のいろんな人たちの、いろんな気持ちに寄り添える作品に、静かにひそかに出会えるのも、外国語で本を読むしあわせのひとつです。

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