R.F. Kuang Yellowface 読み終えました



今年の話題作、R.F. KuangによるYellowfaceを読み終えました。

めちゃめちゃ鋭いがゆえに読むのがしんどく、だけど文章はとても読みやすい作品でした。

あらすじ

Amazonの書籍紹介文にある程度の内容ですが、まっさらな状態から読みたい方は閉じてる部分をとばしてください。

同じ大学を出て、同じ年に小説家としてデビューした主人公Juneとその友人、Athena(「アジア版アン・ハサウェイ」と表現されるような美人)。Athenaはみるみる頭角を現し人気作家となりますが、Juneのほうは鳴かず飛ばず。

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ある日Athenaに呼び出され彼女の家を訪れたJuneですが、Juneの目の前でAthenaが不慮の事故で命を落としてしまいます。Juneはとっさに、Athenaが書き終えたばかりと言っていた原稿を持ち帰り、自分が書いたと偽り担当編集者に送るという暴挙に出ます。

ところがその小説の内容は、第一次世界大戦中に英仏に貢献した中国人労働者についての物語であったことから、ぼろぼろと問題が出現します。中国とは何の縁もないJuneが中国人の知られざる歴史について語る矛盾。その歴史について何の思い入れもないJuneと編集者が、Athenaの思いを踏みにじるような形で、万人向けのストーリーに薄めてしまう傲慢さ。さらには、著者の名前と容姿をアジアがルーツであると誤解させるようなあいまいなものを打ち出して売り出していく強引さ。

出版社の大きなバックアップを得て発売された小説は、あっという間にベストセラーにランクインし、Juneは時の人となります。しかし、やはり白人作家が他者の文化的な物語を利用していることが問題視され、Juneは悪意に満ちた誹謗中傷のターゲットになるなか、悪事の証拠が見つからないよう奔走することになります。

感想

とにかく読み進めるのがしんどい本でした。
主人公が悪事をはたらいているところから始まるので、終わりがどちらに転ぶにしろ、すがすがしいハッピーエンドとはならないのはわかっています。

ちょっとずつ現実を見る視点をずらしながら自己弁護していく主人公の狂気にすら、うっすら共感させてしまう著者の筆力に圧倒されながら読み進めました。

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そもそもが他人の作品を盗んでいるという邪悪さの上に、出版社のグレーな策略が上塗りされていき、さらにはネットやSNS上でふくらんでいく匿名の誹謗中傷、Athenaですら純粋な被害者ではないことがわかっていったり、誰が悪者なのかがわからなくなっていくことで、物語としてのおもしろさは増していきますが、しんどさとか不快感も比例して大きくなっていきます。

個人的には、ネットで叩かれまくって疲弊しているJuneに担当編集者が「実際問題、炎上したほうが売れるから逆にメリットなんだよ」と言ったり、Athenaの彼氏も実はAthenaに不満があったり、AthenaのことでJuneを追い詰める人間が「Athenaなんてどうでもいいわ!あいつ大嫌いだわ!」と言ったり、この率直すぎてめちゃくちゃ感が大好物でした。いい人ゼロなところが逆にすがすがしい。

中盤、少し中だるみしている感はありましたが(中国の文化的な説明が長かったのが私にとっては退屈でした)、後半の急展開からは先が気になって仕方なく、結末も作者の力を感じました。

こわくてしんどいですが、複数の登場人物に感情移入することができ、とても豊かな読書体験をすることができたので、おすすめしたい作品です!文章もとても読みやすく(普段、冒頭の2~3割まではペースをつかむのに苦労するのですが)最初からまったく混乱することがありませんでした。

知っている世界…

この本がすごいな、と思うのは、著者自身が身を置いている出版業界、ひいては他人の経験を物語として昇華/消費する作家すらも痛烈に批判していることです。
作品の中でとはいえ、そんなの言っちゃって大丈夫なんだ…?と心配になってしまうくらいです。

私自身の著書ではないのですが、『他者の利益を守る/誰かが利益を得る/出版社の大人の事情のために、(著者の意思にはそぐわない形で)そこに書いてあった文章を変えるということが実際に起きている』のを見聞きしたことがあるので、私も同じ業界の端っこで小さな経験を積んだ身として、「え…こんなのいいんだ…?」ということが行われているという事例もしくは可能性、そういう点からもとても興味深く読みました。

多様性、人種差別、文化の盗用、匿名の一般人が加害者となるネット炎上…、この時代のキーワードが盛り盛りの一冊です。

著者の前作、Babelもおもしろいそうなので読んでみようかな…。