今年1月に出たアビゲイル・ディーンのデビュー小説、Girl Aを読み終えました。
エージェントにより出版権がオークションにかけられ、6桁の金額で競り落とされたという話題作です。
著者は2作目の執筆にとりかかりつつ、今もGoogleで弁護士として働いているそう。
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あらすじ
ベースとなるのは、実の両親による、7人の子への監禁虐待事件です。
物語のはじまりの部分で、きょうだいのうちのひとりが逃げ出し通報した結果、子供たちは解放され、父親は自殺し、母親は終身刑となっていることがわかります。
脱走し、彼女ときょうだいたちを救った「少女A」であるLexは、現在はニューヨークで弁護士をしています。
母親は刑務所内で亡くなりましたが、死の間際に遺言執行人としてLexを指名していました。彼らにのこされた遺産の処理のため、Lexがきょうだいたちに連絡を取り、それぞれの意思を確認しなければならなくなったのがことのはじまりです。
全体的に暗いです。
彼らの「それから」
著者自身がインタビューで語っているように、どうやって監禁生活から脱するか、というところではなく、苛酷な経験をしたあときょうだいのひとりひとりがそれをどのように克服していくか、ということがメインになっています。
同じ「実の親から虐待されている子供」という立場であっても、きょうだいの数が多ければ多い分、置かれている状況にはグラデーションがあり、そのつらさ、生きる支えになる感情はそれぞれ異なっています。解放されてからきょうだいたちはそれぞれ別の家庭に養子としてもらわれていきましたが、いい育て親にめぐまれた子もいれば、そうでない子もいる。自分の過去を隠して生きている子もいれば、そうでない子もいる。
Lexがひとりひとりを訪ねていく中で、きょうだいたちのたどってきた人生や現在の状況、そして心に秘めていたものが明らかになっていきます。
こどもへの虐待の描写が全体にわたって続くので、このタイプの話が苦手な人にはおすすめできない作品です。
ターピン夫妻の事件
著者は実在した複数の事件からインスピレーションを受けたとインタビューでも語っています。
特に、この作品とも多くの共通点がある、13人の子供を監禁していた2018年のターピン夫妻の事件については、この作品を読んだ後、ニュース記事を読みあさってしまいました。この作品を読み終えたらぜひこのニュースチェックしてみてほしいです。事実は小説よりおそろしい。
ここからネタバレあり(タップで開く)
Girl C
Girl Cと呼ばれるEvie。
Lexにとってはきょうだいの中でもっともつながりが深く、ほかのきょうだいたちとは違って頻繁に連絡を取り合っている妹のEvie。今回の一件でもLexの支えとなり、旅にも途中から同行するのですが、ある時とつぜん、姿を消してしまう。実はEvieは警察が突入する時点にはすでに危篤状態で、病院に運ばれたもののほどなくして亡くなっていた、というのが物語後半の大きなクライマックスです。
とはいえ、この手のどんでん返しは結構よくある上に、「匂わせ」エピソードもそこここに置かれているので、わりと早い段階で気づいていました。主人公が一人称語りするストーリーはこのパターンありがちですね!
この事実に対しての、精神科医Kayの立場が非常に興味深かったです。言われてみればなるほどそういうこともあるかもしれないなあと。プロとしては、えー?それってどうなの? とは思いますが。
Boy B
Gabriel。かわいそうすぎて。
Girl B
美貌のDelilahは、最初はいけ好かない感じ全開ですが、徐々に彼女のよさがわかってきます。LexがEvieを守りたいと思っていたように、DelilahはGabrielを大切に思っていた。
極限の状態に置かれているときには、LexがEvieのようにはNoahの無事を心配できなかったように、Delilahも自分を守るのがせいいっぱいで、Lexはむしろ安全をおびやかす存在に見えていたのでしょう。
このきょうだい間の微妙なバランスがうまく描かれていて非常に興味深かったです。
Boy A
いつでも逃げられる立場で、いつでも皆を救える状況にあったのに、それをしなかったのが一番上のEthanです。
先に紹介したターピン家の事件でも、きょうだいのうちひとりは監禁状態にはなかったとされています。
鎖につながれている子もいれば、そうでない子もおり、受けている仕打ちの度合いにグラデーションがあった。
事件が明るみになるきっかけは、そのうちの17歳の女の子が窓から逃げ出し通報したからですが、実はもうひとり女の子が一緒に脱走していたにもかかわらず、こわくなって家に戻っています。
長いあいだひどい状態に置かれ、洗脳され、学習性無力感に陥っていたのだとは思いますが、Ethanの描かれ方は大変不穏で、結婚後の先行きが不安になりどきどきしてしまいます。
Bill
加害者でもあり被害者でもあった母親。彼女の弁護士であったBillは今回ずっとLexを思いやり、寄り添ってくれています。
後半でBillがLexに語る言葉は、主人公Lexと同じように弁護士である著者の想いかなと思って読みました。
感想
最初の時点で、Lexが解放後に順調な人生を送っていることがわかります。
そのこともあり、あまりハラハラせずに読めるのですが、それでも虐待の描写はかなりしんどかった。
Ethanや母親は全員を救える状態にあるのに行動を起こしてくれない、というのもきつかったですね。
ドラマ化が決まっているそうですが、ストーリーを知っててもしんどそうで見れる気がしません。
Evieのことが明らかになってからの後半はちょっと中だるみした感がありました。
最悪の状況を経験したからといって、きょうだいたちはその後の不運を減免されるわけではなく、それからの人生でも挫折や悲しい出来事を経験し、乗り越えていかなければなりません。失恋や親しい人の裏切りに打ち克てず、前に進めなくなってしまう人もいる。きょうだいのそれぞれが傷を抱えたままですが、それでも、みな希望のあるかたちで描かれていてよかったです。Ethanはちょっとこわいけど。
段落ごとに時間軸が変わります。それもしょっちゅう。
昔語りだと思って読んでいたら、いきなり現在に戻っている。
現在の話をしていると思ったら、思い出の中に入ってしまっている。
最初はとてもとまどいましたが、だんだん慣れました。
ちょっと込み入ったこの構成、私は嫌いではありませんでしたが、それが苦手でDNFしたというレビューも見かけました。
あれ?と違和感を抱いたのち、少し戻って再読することで、それまで見えていたものが別のものにすり変わる、それを繰り返しながら少しずつ進み、形づくられていく物語だと思います。
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読み終えました!
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