Exit West by Mohsin Hamid 読了



以前読んだこの本。

パキスタン出身の著者は、マッキンゼーでコンサルタントとして働きながら、小説を執筆。2作目の作品はブッカー賞のショートリストにもノミネートされました。

ビジネスマンが好んで読みそうなタイトルですが、ビジネスの視点以外の人生の機微について語られる部分がとても面白かった。

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3冊読みました。 #洋書多読だん | Mandarin Note
読みました。Curious George’s Dinosaur Discoveryおさるのジョージ。544語。Who Was Pablo Picasso? (Who Was…?)7,500語。子供の頃…

この著者の新刊を読みました。
短めですぐに読み終えられるかなと思いましたが、予想外に複雑な構成で、ようやく読み終わりました。

英語自体は難しくありません。難しい語彙も出てこない。

ただ、ぼんやり読んでいると話がいきなり全然違うところにぽーんと飛んで行きます。

2人の若い男女が主人公のお話なのですが、あいまあいまにちいさなエピソードが差し込まれます。
あとから何か関係してくるのかなと思って読んでいると、結局全然つながらないままだったりするのですが、読み終えて全体を見てみると、その小さな話がぐっと浮かび上がって意味を持ってくるような、そんな不思議な構成です。

映画のロングショットのように、登場人物と距離感のある語り口で物語は進みます。

会話部分も多くなく、主人公の女性の方はかなりドライな性格で、ぐっと感情移入できるタイプではないのですが、その乾いた描写が妙に心地いいのです。

主人公の若い2人は、情勢の不安定な街に住んでいます。迫り来る命の危険から逃れるため、2人は住む土地を離れ、難民としての暮らしを余儀なくされます。

どうやらイスラム圏に暮らしているらしいのですが、どこの地域かは明らかにされません。

彼らは私たちと同じように会社で働き、スマホで音楽を聴いたりものを調べたりし、恋人の部屋で逢瀬を楽しんだりしていますが、次第にその普通のことができなくなっていきます。

デートのあとで家に帰る恋人が、もしかすると帰宅途中に命を奪われるかもしれない、これきり会えないかもしれないと不安な気持ちで見送るような社会情勢になってしまう。

物語の中で、住む土地を追われた人たちが別の場所へ移動する手段として、不思議なドアが登場します。
どこでもドアのように、遠く離れた2点の土地を結びつけるドアです。

このドアの説明は結局最後までありません。
以前話題になった海辺で亡くなっていた小さな子の写真のように、移民の大変さは「移動」にフォーカスされがちですが、実は移動した後の暮らしの方がもっともっと大変なんだと、物語を読みながら身につまされる気持ちになります。

そして移民の大変さに注目して読んでいたら、今度は男女関係の難しさにスッと視点が移っていきます。こちらは移民であろうがなかろうが、どんな環境で暮らしていても普遍の問題なのですね。

このコントラストがなんともいえない味わいを出していました。

最後の章での、二人のやりとりがとても心に残っています。

不安な要素が多い現在ですが、止むに止まれず故郷を追われてやってきた人たちとどう共生するか。
不安定な地域と平和な地域をつなぐ不思議なドアや、2人の物語に挿入される一見全く無関係に思われるよその国の人たちのエピソードは、他人事と思っている人たちにもその問いについて考えて欲しいというメッセージかなと思いながら読みました。

重いメッセージを内包していますが、若い2人の恋愛が淡々と描かれるうつくしい小説です。

ブッカー賞最終候補作になった作品は邦訳も出ています。

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