先日ブログ記事で紹介した、豆瓣2019年ベスト本リストの中から、短編集を一冊読み終えました。
この短編集、おもしろかった。
チベット特有の単語に慣れれば、文章自体はかなり平易で読みやすいです。
著者の万玛才旦(ペマ・ツェデン/ペマ・ツェテン)は、著名な映画監督です。
青海省に生まれた藏族で、西北民族大学卒業後、北京电影学院でも学び、作家、脚本家、映画監督と多方面で活躍。
この本にも収録されている『撞死了一只羊』が原作となった映画『Jinpa(轢き殺された羊)』はヴェネチア国際映画祭でオリゾンティ脚本賞も受賞しています。
表題作の《乌金的牙齿》は、活佛となった幼なじみとの交流と別れを描いています。
子供の頃のふたりが黄河の川べりで遊ぶ様子や、立派な僧侶となった友達を前にしてどう接していいか戸惑う主人公の様子など、ひとつひとつのシーンがくっきりと思い浮かびます。このお話もとてもよかった。
【追記】
うれしい!
日本語訳出てました!
『Jinpa』と《撞死了一只羊》
実は以前に映画『Jinpa』を観たことがあります。
https://youtu.be/fmbrcJMUupI
鑑賞時に、「ふたつの作品をかけあわせてひとつの作品の脚本とした」という情報も聞いていたのですが、今回、原作である《撞死了一只羊》を読んで、なるほどと納得しました。
『Jinpa』の中国語タイトルは、『撞死了一只羊』、監督自身の書いた短編と同じです。
トラック運転手のジンパ(金巴)が荷物を運ぶ途中で羊を轢いてしまい、かわいそうに思ってお弔いをしてやるお話です。
チベットの荒野と、ジンパのやさしさの対比がとても心にしみました。
映画にも、このトラック運転手のジンパが出てきて、ほぼ原作と同じ行動をとるのですが、ここにもうひとり、同じ名を持つ男が登場します。もうひとりのジンパの方は、30年前に殺された父親の仇を討とうとしている。それぞれが「死」を抱えている、その対比がおもしろい。
静かな映画で、ともすれば眠くなってしまいそうな間の取り方でしたが、サスペンスめいた雰囲気の中、いたるところにユーモアが散りばめられていて飽きることがなく、最後までなんだか不思議な映画でした。
映画の結末
ふたつの原作のうち、片方を読むと、俄然もう片方が気になります。
次仁罗布の《杀手》をググってみると、ありました。
映画の結末は、かなり唐突だったので、(ん?今のは何だったんだ?)と謎のままだったのですが、《杀手》を読んで納得しました。実際には起こらなかった敵討ちを、夢の中で代わりに果たしたのですね。映画のあとだったか前だったかに出てきた夢についての文章は、このことを言っていたのでしょう。
万玛才旦の作品、日本のアマゾンではこの1冊だけ取り扱いがあるようです。
電子書籍なら、微信読書アプリで読むのが便利でお手軽。