余華の7年ぶりの長編小説が出たと聞いて、気になってはいたのですが、『兄弟』のようにヘビーだと日常生活に支障が出るなあ…と悩んでおりました。
ところが、ボリューム的に『活着』と同じくらいのページ数、しかも中国アマゾンでKindle版が買えることに気づき、すぐにとびつきました。
(中国のKindle書籍は中国国内の住所を登録すれば購入することができました。ご購入の際は自己責任でお願いします)
ひとりの男が死んだ後の7日間を描いた作品です。
一気に読み終えたので、語句の確認がてら、もう一度読み返しました。読み返してあらためて気づくこともいろいろありました。
死後の7日間、男は自分の生きてきた過去を振り返ります。男の周囲では、メディアがよろこんでとびつきそうな出来事がやまほど起こっています(それこそ、中国のニュースで聞いたことがあるようなものばかり)。男の出生それ自体が、かつてニュースとして世間を騒がせもしたのでした。
けれど男の胸の中は、賑やかな世間とは対照的に静かでとても凪いでいます。生きているときも死んだ後も、心にあるのは愛する人のことだけ。
死後の世界をさまよう男が出会う、スキャンダラスな事件の中心人物たちも、それぞれの事情を抱え、思うように行かない人生の荒波をなんとかくぐり抜けようともがいていたのでした。
あらすじを紹介するのがヘタなので、このくらいにしておきます…。いろいろ書いてみたいこともあるのですが、ネタバレになるので控えます。
『兄弟』が出たときも、えらく酷評されていましたが、今回も「がっかり」のレビューが結構ついています。毎度毎度なぜなんでしょう。中国の今がよくわかるし、著者の人間に対する優しい視線も感じました。
『兄弟』はゴツゴツひっかかりどころがたくさんありすぎて、読む私自身も傷だらけになってしまいましたが、『第七天』はなめらかすぎてかえって拍子抜けしてしまいました。でも、著者のどの作品にも流れているテーマというか思いは、しっかりと感じ取れました。
文章はシンプルで読みやすく、『兄弟』のように痛々しすぎて読むのがつらい場面もそう多くありません。読後感も悪くないと私は感じました。興味のある方、ぜひ読んでみてください。
中国の小さな街の青空本市場で何の気なしに『活着』を手にとって読み、『兄弟』刊行後、来日した著者の講演会に馳せ参じ、そして今『第七天』を読みました。
『活着』を読んでから、15年以上がすぎているのですね、私と中国語との取っ組み合いももうそのくらいになるのです…
余華の作品は私の人生のマイルストーンでもあります。
これを読んでませんでした。また時間を作って読もう。