アンディ・ウィアーの新作、Project Hail Maryを読み終えました!
おもしろかった!
発売時は2200円台でしたが、今は少し値下がりしてます。
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そして日本語版『プロジェクト・ヘイル・メアリー』も出ました!
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『火星の人』を彷彿とさせる宇宙での孤独な奮闘
デビュー作のThe Martianは、火星から地球に帰還するための孤独な奮闘でしたが、今度は人類存続の危機を回避するため、地球から遠く離れた場所で奮闘する物語です。
The Martianはマット・デイモンで映画化されましたが、本作はライアン・ゴズリング主演で映画化が決まっているようです。どっちも私のイメージとは違ったので、皆さんも彼らの顔はいったん忘れてください。
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二転三転でハラハラ
Amazonの書籍紹介文では、主人公の置かれた状況がある程度説明されていますが、ネタバレの嫌な人は、ぜひいきなり読み始めてください。
宇宙船の中にいる現在の主人公と、過去の回想が順に語られていきます。
ちなみにタイトルにある「Hail Mary」の意味ですが、もともとは「アベ・マリア」、聖母マリアへの祈祷を意味しますが、アメフト用語で、苦戦を強いられているチームが一発逆転を狙い、試合終了間際にエンドゾーンめがけていちかばちかの長いパスを投げるプレーのことも差します。
ネタバレなしの作品紹介(タップで開く)
太陽のエネルギーを吸い取って太陽系を氷の世界にしてしまう、不思議な生命体、アストロファージ。
このアストロファージを駆除しないと、地球は数年のうちに氷河期に入り、生きものが住めない環境になってしまいます。
調査研究によって、このアストロファージが存在しているにもかかわらず、影響を受けていない惑星系があることが発見されました。なぜ影響を受けないのか、その理由がわかれば太陽系を救うことができます。
それを探るため、宇宙船Hail Maryは3人の乗組員を乗せて、片道切符の長い旅に出ました。
長旅の船内での食糧問題を解決するため、乗組員たちは乗船後昏睡状態に入り、機械のお世話を受けることによって生命を維持します。ところが、主人公Rylandが目覚めたとき、仲間2人はすでに息絶えており、彼自身も自分の名前さえ思い出せない記憶喪失状態に陥っていました。仲間も記憶も失った状態で、彼は任務をまっとうできるのでしょうか。
以下作品の核心に触れています。
ここからネタバレあり(タップで開く)
ビフォーアフター
(ネタバレ部分を閉じていても見出しは見えるので、何と書こうか気を遣います。)
『三体』を読んだ後だと、Rockyとのご対面までがこわくてこわくてたまりません。
といってもアンディ・ウィアーの作品なので、そんなに恐ろしく慈悲のない展開にはならないだろうと、心の半分では安心しきって読んでいるわけですが。
でっかいごつごつしたスパイダー、しかもアツアツでアンモニア臭がすごい、という全然かわいげのない宇宙人ですが、だんだん可愛く感じてくるのが不思議です。コミュニケーションが音、音調と和音、というのも、大変平和的でよい感じです。テッド・チャンの『あなたの人生の物語』みたいに複雑すぎたらこんな交流はできなかっただろうと思うと、Rockyたちの持つ言語のシンプルさにホッとしたりもします。
The Martianと同じく、主人公は孤独ではありますが、完全に孤独というわけではありません。
今回はRockyという同じ目的を持った相棒の存在が大変大きい。
人類を救う、という大義には命を捨てられないと思っていても、異星人の友を救うためなら死を覚悟してどう行動するかを選択できる。人間ってそんなものですよね、そんなに完璧に強くない。
最後にRockyの星に行くという選択も、ほかに選択肢がなかったということもあるでしょうが、地球がどうなっているかわからないという恐怖からの逃避もあったのかなと思いました。
ヘタレの私はそんなRylandにものすごく共感してしまいました。
The Martianの主人公と同じく、目の前にあらわれた問題を、科学という道具を使ってコツコツ地道に解決していく、ヘタレなりにかっこいいところも見せてくれます。
勇敢な英雄
なんといっても、Rylandが志願して片道切符のHail Maryに乗船したわけではない、という事実が明らかになるところが、いちばんのクライマックスではないかと思います。
昏睡状態から恢復し記憶喪失になったのは偶然ではなく、何か理由があるのだろうなと思っていましたが、まさか泣きわめいて嫌がったのを無理やり乗せられたとは。乗せられることが決まったときのRylandも気の毒だし、それを思い出したときのRylandの気持ちを考えるといたたまれない。
The Martianのときもそうでしたが、著者の描く主人公は置かれた状況にやむにやまれず、勇敢な行動をとります。この作品では特に、ひとの心の中にある弱さ、直面した困難から逃げようとすることを否定しない姿勢が顕著で、正しさとか強さを押し付けられない感じがとてもよかった。
残された人々
昏睡状態のまま志半ばで亡くなってしまった二人の乗組員も気の毒ですが、地獄行きを覚悟してプロジェクトを最後まで進めたStrattの人生もいたましいです。きっと本人が言う通り、Hail Mary打ち上げ後は大変な困難が待ち受けていたことでしょう。彼女もまた、はじめから鋼のように心の強い人間だったわけではなく、環境が彼女をそうさせたのだろうと思います。拘束されて宇宙船に乗せられたRylandのように。
小ネタ満載
Hail Maryには中国人クルーが乗船しているので、船内のあちこちに漢字で書かれた表示があります。
ときどき出てくる中国語が、ちゃんと漢字で、正しく書いてあるのが印象に残りました。作品によっては適当にごまかしてたり、なんか違和感があったりすることが多い中、中国語がわかる人にもリアリティを感じさせるディテールのこまかさがすごいなと思いました。私が気づかないところにも、そういう丁寧さがひそんでいそう。
あと、クスっと笑ってしまうところが随所にあるのも楽しかったです。
Rockyの配偶者だからエイドリアンと名付けよう、とか、昆虫みたいな形の4基の探査機にBeatlesと名前がつけられ、そのプロトタイプはPeteという名前だったり。立派な科学者たちのおかしな言動の人間くささもよかった。
『三体』読んだ人向けのネタバレ(タップで開く)
『三体』
『三体』を読んだ後だと、Rockyと対面するまでの展開にものすごくヒヤヒヤしてしまいます。
『三体』で読者が学んだのは、宇宙ではお互いに理解することも信頼することも不可能であるという猜疑連鎖。自分たち以外の生命体を見つければ、即座に消滅させるために動くのが正しい在り方。
とはいえ、アンディー・ウィアー作品なので、そんなヒリヒリする展開はないだろうと思いつつも、「黒暗森林」の原則で行けば、自分の星が助かる方法が見つかれば、ただちに相手を抹殺する、という可能性もなきにしもあらず。
『三体』の猜疑連鎖も真理ではあるのでしょうが、この作品では逆に相手を信頼しないことには自分の星も救えなかった。
自分の命を投げ出すことで結果的に自分の命を救うことができた、というのをお互いに二回り(以上?)繰り返すのですが、このスイートな感じがいかにもアメリカ的だなと感じました。
こういうストーリーに慣れていたからこそ、『三体』の冷徹さ、容赦なさ、先の読めなさが世の中にガツンと来たのだと思います。
ネタバレ部分と重複しますが、著者の描く主人公は置かれた状況にやむにやまれず、勇敢な行動をとっていきます。
この作品では特に、ひとの心の中にある弱さ、直面した困難から逃げようとする気持ちを否定しない姿勢が顕著で、正しさや強さを押し付けられない感じがとてもここちよかったです。
The Martianもそうでしたが、五感総動員のストーリーです。特に匂いの描写がすごい。快適さとはかけ離れた環境で任務にあたらなければならない苛酷さが、匂いの描写からひしひしと伝わってきました。
とにかくおもしろいです。
現在と過去の行き来で、すこしずつ隠された事実が明らかになっていくのですが、現在の状況が刻々と変わっていく中、ゆっくりと語られる過去の回想がもどかしくて、早く現在に戻ってー!とドキドキワクワクしながらページをめくりました。
きっとすぐに日本語版も出るでしょうが、興味を持った方はぜひぜひ!原書で読んでみてください。
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