Klara and the Sun読了(カズオ・イシグロ『クララとお日さま』原書)



カズオ・イシグロのKlara and the Sun、読み終えました。

世界同時発売ということで、日本語訳もすでに出ています。中国語訳も韓国語訳も出てた。すごいな。
Amazonの日本語版ページはかなりネタバレレビューが集まっているのでご注意ください。

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英語自体はそれほど難しくないのですが、途中何度か最初の方に戻って読み返す必要がありました。

やわらかく静かな語り口のその陰にちらちらと感じる不穏な気配。イシグロ作品らしさを感じる作品でした。

英国作家、カズオ・イシグロがノーベル文学賞を受賞したそうです。 好きな作家なので嬉しい! というわけで、私の読んだおすすめ作品を紹介...

感想

著者本人もインタビューなのでかなりつっこんだコメントをしているので、ネタバレを読まないように気をつけつつ、予備知識ほぼなしの状態で読みました。
事前にあったのは、AIヒューマノイドの女の子が主人公ということくらいでしょうか。

感想は注意深く書いてもネタバレ満載になってしまうと思い、書くのが難しい…。

ここからネタバレあり(タップで開く)

暗示の多さにとまどう

本の中の世界では常識となっている語彙についての説明が少なく、周辺の会話内容などからその語彙がどういう意味を持つのか推測する必要があります。

動詞だと、「lifted」とか「substituted」、名詞だと、いちばんわかりづらく、かつ後半で重要な意味を持つcootings machineというのがその代表でした。ただ、こういう暗示のしかたはNever Let Me Go(『わたしを離さないで』)でもあったので(「completions」とか)、そういうものだろうと思いながら読み進めました。どうせあとでわかるだろう、と思いながら。

今回は主人公がヒューマノイドということもあり、彼女の世界のとらえ方が人間と違うことで生じる不思議な表現も多かったです。クララは情報が多かったり複雑だったりすると、ひとつひとつをboxに分けて情報処理しようとします。

そういった場面では、私の脳内解像度もガクッと落ちるのですが、それが自分の英語力のせいなのか、表現によるものなのかわからず、同じところを何度も読み返すことが多かったです。

勝手に納得して読み進めた部分も多かったので、日英で読み比べつつ再読するのもおもしろそうです。

人をジャッジしないクララの視点

この物語に出てくる人は、みんな不完全です。ダメなところがよく見えます。そんなことしなきゃいいのにということばかりしているように思えて、読んでいるこちらがモヤモヤします。成長途中のジョジーやリックのあやうさはまだしも、大人たちの予想を超えた行動には理解を超えるものがあります。

にもかかわらず、クララはいっさいジャッジしようとしません。ただひたすらジョジーの幸せと健康を願って行動します。この透明な視点がなかったら、この物語で起こるいろいろなできごとは、しんどすぎて読んでいられないと思います。

無垢でひたむきなクララというヒューマノイドを通じて、大人たちも少しだけ変わっていくところに、この作品の優しさを感じました。ほんと、これがなかったらしんどすぎて(以下同文)。

感情が目減りした人間と感情を持ったロボット

この本の世界では、感情はあまり役に立たないものとしてとらえられているようです。Liftされる過程で情緒を持たなくさせられているような描写もありました。おそらくはそういった処置を受けていないメイドは、ほかの人たちと違ってあからさまにクララを気味悪がっていることからも、そのことを感じさせられます。

ジョジーの母親が、クララが死んでしまった後の孤独に耐えられないからとクララの身代わりを作ろうとするのも、そうした情緒の減退によるものかしらと思いました。この行動にはまったく理解できませんが、クローンペットを欲しがる人間も現実にいるのだと思えばあり得る気もしてきます。

怒りや気味の悪さ、喜びよりも、しつこく人間の心に居座るのは孤独やさみしさ。人は孤独から逃れるためならなんだってする。

かたやクララは気持ちが高ぶって声が大きくなってしまったり、太陽の存在に理屈を超えた信仰心を持ったりと、明らかに「機械」がもつ以上の情緒をそなえているようです。

人間ではないクララが太陽に祈り自分のからだも投げ出す姿は、純粋さを通り越して狂気を感じてしまい、こわかったです。

イアン・マキューアンのMachines Like Meに出てくるAIヒューマノイドも、同じように自分が信じる道をひた走りますが、結果はぜんぜん違うけれども方向性は一緒だなと思います。

最後の別れで、意外にあっさり「じゃあね、もう次に帰ってくるときはクララはいないわね」と言ってしまうジョジー。感情が目減りした人間としては、物置部屋に押し込まれたままのクララに外を見せてあげるという優しさを見せるだけでもすごいことなのかもしれません。「人間らしい感情」をもつ機械に人間が特別な感情を抱くように、クララもLiftedらしからぬジョジーの優しさに喜んだのかも。

「特別なものは、ジョジー自身ではなく、彼女のまわりの人の中にある」というクララの言葉。それはクララの中にもある。

最後の場面もとてもさびしさがにじむものでしたが、お日さまが照っている中で、思い出に生きるクララはさびしくなさそうなのが救いでした。

クララの心には、孤独へのおそれがなくてよかった。

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同じAIヒューマノイドがモチーフの、イアン・マキューアンのMachines Like Meもおもしろかったです。

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