このたびの大雨により被害を受けられた方々に、心よりお見舞い申し上げます。
一日も早い復旧と、皆様のご健康を心からお祈り申しあげます。
科学技術がどんなに発達しても、人間が止めることができない、完全にコントロールすることはできない、自然災害の恐ろしさを感じます。
人知を超えた大きな力に対して、生命や財産を守るため、昔からさまざまな工夫がされてきました。
人々の暮しを守る土木工事に携わった人々のドラマを描いた小説を集めてみました。
水神 帚木 蓬生
目の前を悠然と流れる筑後川。だが台地に住む百姓にその恵みは届かず、人力で愚直に汲み続けるしかない。助左衛門は歳月をかけて地形を足で確かめながら、この大河を堰止め、稲田の渇水に苦しむ村に水を分配する大工事を構想した。その案に、類似した事情を抱える四ヵ村の庄屋たちも同心する。彼ら五庄屋の悲願は、久留米藩と周囲の村々に容れられるのか―。新田次郎文学賞受賞作。
子や孫の世代が、自分たちよりも苦労の少ない人生を送れるようにと、全財産や命を投げ打って大自然と闘う庄屋たちと、彼らに賛同して協力してくれる周囲の人たちの姿に心打たれます。
孤愁の岸 杉本 苑子
財政難に喘ぐ薩摩藩に突如濃尾三川治水の幕命が下る。露骨な外様潰しの策謀と知りつつ、平田靭負ら薩摩藩士は遥か濃尾の地に赴いた。利に走る商人、自村のエゴに狂奔する百姓、腐敗しきった公儀役人らを相手に、お手伝い方の勝算なき戦いが始まった……。史上名高い宝暦大治水をグローバルに描く傑作長編。
宝暦治水事件がテーマの小説。木曽川・長良川・揖斐川の治水工事に大きな功績を残した薩摩藩士たちの物語です。
頂上至極 村木 嵐
関ケ原の合戦から150年。徳川に歯向かった西軍として、いまだ敵視され続ける薩摩に非情な命が下る。天下の暴れ川・木曽三川の、絶対不可能とされる治水工事―。1000人の藩士が“薩摩の本気”を胸に秘め、一路美濃へ旅立った。これは形を変えた関ヶ原の戦い―。己の責務に命をかけた男が、艱難辛苦の末、辿りついた衝撃の結末!
『孤愁の岸』が1982年、そしてこちらが2015年の作品です。同じ宝暦治水をテーマにした作品を読み比べるのも楽しいです。
京都インクライン物語 田村 喜子
琵琶湖の水を京都に導く。京都再生を目指して計画された明治期の一大プロジェクト琵琶湖疏水事業。その難工事に情熱を賭けさせたものは何だったのか。田辺朔郎ら、男たちの熱き情熱を語る長篇小説。
インクラインとは、舟を運ぶための鉄道のこと。琵琶湖の水を京都に引き込む疏水工事の一環として作られました。江戸時代には技術的に不可能だった疎水工事を、首都が東京に移り、衰退の影が見えていた明治時代に実現させた人々の物語です。
作者の田村喜子さんは他にも多くの土木工事をテーマにした小説を書かれています。
江戸を造った男 伊東潤
伊勢の貧農に生まれた七兵衛(後の河村瑞賢)は江戸に出て、苦労の末に材木屋を営むようになり、明暦3(1657)年、明暦の大火の折に材木を買い占めて莫大な利益を得る。やがて幕府老中の知遇をえて幕府の公共事業に関わっていく。
日本列島の東廻航路・西廻航路の整備や全国各地で治水・灌漑・鉱山採掘などの事業を成功させた。
新井白石をして、「天下に並ぶ者がない富商」と賞賛された男の波乱万丈の一代記。
こちらは、江戸時代。たぐいまれな才覚で得た利益をもとに、江戸のインフラ整備に多大な貢献をし、最後は旗本にまで加えられた実在の人物、河村瑞賢の物語です。
石狩川 本庄 陸男
明治維新という時代の転換期、蝦夷地への移住を余儀なくされた伊達の一支藩。元家老ら先遣隊は新政府役人への忍従を強いられながらも、石狩川の流れる氷雪の原野へ……。
近代日本の幕開け、未開の北国での苦闘した父祖たちのドラマを描いた不朽のベストセラー。
川と洪水の描写がものすごいです。北海道開拓の厳しさが綿密に描かれた作品。パブリックドメインになっているので無料で読めます。著者は刊行後2か月、結核により34歳の若さで亡くなったため、この作品は未完とされています。
高熱隧道 吉村昭
黒部第三発電所――昭和11年8月着工、昭和15年11月完工。人間の侵入を拒み続けた嶮岨な峡谷の、岩盤最高温度165度という高熱地帯に、隧道(トンネル)を掘鑿する難工事であった。犠牲者は300余名を数えた。トンネル貫通への情熱にとり憑かれた男たちの執念と、予測もつかぬ大自然の猛威とが対決する異様な時空を、綿密な取材と調査で再現して、極限状況における人間の姿を描破した記録文学。
ちょっとカテゴリ外れますが、土木関連小説と言えば吉村昭なので、こちらをご紹介。
無名碑 曽野 綾子
大自然を相手に人類の碑を打ち立てる。そんな気概を胸にダムや高速道路の建設に従事する土木技術者・三雲竜起。己の仕事を世の発展のためと一途に信じ、つましくも幸せな家庭を築くが、苦難もまた忍び寄っていた――。運命に翻弄されながらひたむきに生きる市井の人々のあり様を、丹念な筆致で描いた傑作長編。
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