傅真《斑马》読み終えました(中国語読書)



傅真《斑马》を読み終えました。

彼女の旅行記は好きで読んでいました。
今回は初の長編小説ということで、読むのを楽しみにしていた…のですが、去年刊行すぐに読みはじめたものの、しんどくて読み進められませんでした。

この作品は彼女自身の実体験(三度の流産、そしてタイで生殖補助医療の力を借り妊娠、娘さんの出産)をベースにして書かれたと想像できる内容です。タイで治療を受けるまでの、流産によって追い詰められていく主人公の様子が過去の自分に重なってしまい、つらかった…。

このたびは、説明がややくどめの冒頭部分をなんとか読み進め、登場人物が出そろって物語がぐぐっと動き出したところからどんどんおもしろくなり、とまらなくなりました。

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KindleでもKoboでも読めるみたいですが、微信読書なら無料で読めます。

妊娠出産という一大事業

妊娠出産を視野に入れるまでは、「望めばすぐに叶う」ものだと思っていたのに、いざ求めると、それが予想外に難しいことがわかる。

はじめて妊娠がわかったときは、まだ準備ができていないし母になりたいのかどうかもわからなかったのに、流産したことで突然、子を持つことが人生の目的のすべてに変わってしまう。

物語の主人公がたどるいきさつが、自分自身の通ってきた道とまったく同じだったので、不妊治療の具体的な描写と、彼女の内心の語りを読むのがとても苦しかったです。苦しいと同時に、ああ、誰も同じように感じるんだ、私だけではなかったんだ、という不思議な安堵も今さらですが感じました。

今のところ、女性にしか果たし得ない妊娠出産という一大事業。
この一大イベントから切り離せない「痛み」、家父長制社会から受ける重圧、生殖補助医療の力を借りて妊娠することに付随するさまざまな社会問題そしてそれを選択した本人の葛藤…

キャリア構築と妊娠出産

それに加え、女性のキャリア構築にまで話が及びます。
妊娠出産をすることで、何らかの形でキャリアは中断されてしまいます。
卵子を凍結して出産時期をあとにずらすということは、一見女性の選択肢が拡大し、有利になったように思えて、実はその時期を労働にあてることで本来の最適な機会を社会に搾取されているのだということ。

正直、前半は詰め込みすぎ、という印象も強いです。
タイのバンコクやチェンマイの描写も加わり、情報消化が難しい。おまけに不妊治療の話が続くのでとてもしんどい。

いい男とサスペンス風味が追加

主人公の苏昂がチェンマイで若い頃の淡い恋の相手Alexに再会し、彼がたいへんいい男であること、そして謎めいた過去を持っていそうなことが物語に厚みを与えていきます。

苏昂に著者傅真が大いに投影されている(苏昂が夫である平川とロンドンで結ばれるエピソードは傅真と夫を多分に想起させる)こともあり、きっとドロドロの不倫関係になることはないんだろうなあ、と、人妻である苏昂がAlexにフラッときては「だめだめ、自分が何のためにここに来たのかよく考えるのだ」とあわあわと立て直す様子を安心して読めるのもよかったです。

Alexの存在感が大きくなったころから、仏教についてやタイの性産業とそこに群がる西洋男性たちについての描写が増えて、また情報量過多な状態が続きます。

そして、苏昂がタイのバンコクに滞在し始めてすぐに艾伦(Ellen)という白人女性と親しくなるのですが、彼女が物語の狂言回しをつとめます。情報量が多い中、登場人物が過不足なく配置されていて、誰が誰だかわからなくなることもなく最後まで終えるのも、すごい筆力だなと思わされます。

後半は謎解きでグイグイ引っ張る

後半はAlexにまつわる謎解きをメインにぐいぐい進んでいきます。
想像していたのとは少し違う展開だったのにうならされました。
物事は多面的で、語り手が真実を言っているのかどうかもわからない、そんな中で主人公がどう折り合いをつけていくのかがとてもおもしろかった。

新しいことを知れる喜び

興味のない人にとってはしつこいくらいの生殖補助医療の実際、そして治療を受ける女性の苦しみや痛み、性産業が国内GDPの大きな部分を占める仏教国タイの人々のありよう、海外で学び祖国に戻ってきた著者のような人たちの職業や結婚に対する価値観、自由意志ってそもそも何なのか…、いろんなテーマが盛り込まれていて、とても興味深く読みました。

個人的には、バンコクの病院の場面で「中国の有名な女優が自分の隣のベッドに横たわって施術を待っていて、ああ、こういうときに別のVIPルートがあるわけではないんだな、平等に私たちと並ばされるんだなーと思った」と登場人物が語るシーンなどは、実際に著者もしくはその周囲の人の体験に基づくエピソードなのかなと感じられて、そういう現実とリンクしそうなシーンが多いのもおもしろかったです。

最終的に、苏昂がたどりついた境地というのも、読書を通じて一緒に経験してきた一読者としても納得できてすがすがしいものでした。

最近は英語の読書に偏りがちでしたが、こうしたおもしろい中国の現代小説をもっと読んで紹介していきたいなと思います。

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