生身の男の子を見てドキドキするのは、あれが生まれて初めてのことだった。
小学5年、転校生として加わった学校の、隣のクラスの男の子。
背が高くて色白で、髪の毛も瞳も透明感のある栗色をしていた。笑うと口元の片側に小さなエクボができた。バレーボールがじょうずなひとだった。
そんなに接点はなかったはずなのに、転校してきてまもなく、私と彼とが好き同士らしいという子供っぽい噂が流れ、せっかく彼を廊下で見かけてもひとから囃されるのがイヤで彼が逃げ出すようになってしまった。私はまんざらでもなかったのに。その年最大のうれしくて悲しい出来事だった。
バレンタインデーにはたくさんチョコをもらうモテ男だったが、もらった手作りケーキを犬にやったという鬼畜エピソードを耳にし(犬にケーキをやってはいけない)、彼に告白だのなんだのしなくてよかったと密かに安堵したのを覚えている。
中学は別々の学校になり、それっきりだったのだが、大学の部活の遠征で新幹線移動をしたとき、プラットホームでばったりと彼に出会った。
私のことを覚えていないかも、と思いつつ、名前を呼んだら向こうも懐かしそうに片手を上げて微笑んでくれた。ロックミュージシャンみたいな風貌で、男前にはさらに磨きがかかっていた。年上の女性と付き合っていろいろあり高校を中退したらしいという噂に納得してしまうような不埒な男の色気があった。髪の色や瞳の薄さもあいまって、透明感が半端なかった。まぼろしみたいだった。
私たちの着ていた大学名入りの揃いのジャケットを見て、まぶしそうに、「大学生なんだ、賢いんだね」と言ってくれたが、私は真っ赤になってしどろもどろで何か答えながら、まぶしいのはあなたのほうですよと思っていた。「元気でね」というような言葉を交わして別れただけの一瞬の再会だったが、何十年たっても忘れることのない、私の人生の中でもとりわけミラクルな経験として刻まれている。
……という話を昨日、久しぶりに会った友達にしたところ、彼女は遠慮がちに、彼はかなり若い頃に自死をしたという話を聞いた気がする、と私に言った。
それを聞いて、私もそれを以前誰かに聞いていたことをハッと思い出した。最近は都合の悪いことはきれいさっぱり忘れる都合のよい脳になっていたのだが、たぶんこの件も悲しい部分だけ聞かなかったことにしていた。そうだった、だからこの思い出は私の心のなかで、はかなくも強く眩しい光を放っていたのだった。
小学生当時、彼が私のことを好きだというのはまったくのデマだったように、彼がもうとっくの昔にこの世を去っているというのもひどいガセで、今もこの世界のどこかで、見る影もなく老けつつも元気に誰かのお父さんをやってればいいと願う。お父さんというガラではないなら、いい歳して悪い男ぶって、女をたらしてヒモでもやっていてほしいと思う。ばったり会ったらまたまぶしそうに目をすがめて、「そうか、まっとうに生きてるんだね」と皮肉っぽく微笑んでほしい。


