好きな作家、アン・タイラーの新作が出るということで、過去の作品を見返しています。
私はあまり「手元に置いておきたい欲」がないのですが、アン・タイラーの作品だけは収集しています。
原書Kindle版はほぼ入手済み。邦訳書も集めていますが、紙の傷みが激しい。
2010年頃から、「アン・タイラーをはじめとする好きな作家の作品を原書で読みたい」という思いで原書を読む訓練を続け、今ではなんとか読みたい本を読むことができるようになりました。
2000年代に文春文庫から過去の作品が続々出始めたときには、このままずっと彼女の新作を日本語で読めると信じて疑いませんでした。『ノアの羅針盤』が2011年に出たきり、以後の作品の邦訳は出ていません。
彼女の作品だけでなく、かつては翻訳されていた作家の新作が日本語に訳されないまま、というケースも多く見かけるようになりました。
海外文学翻訳書のマーケットが縮小し続けている現在、「原書で読みたい」という思いで獲得した「英語で読める」技術は、「邦訳されることのない好きな作家の新作を読む」という望みを叶えるツールとなったのです。
読めるようになってよかった、という安堵半分、もはや日本が翻訳大国ではなくなってしまっていることへの寂しさ半分、といったところです。
私ができるのは、読むことをやめず、「日本文学も海外文学も、どっちもおもしろいよ!読んでみよう!」と世界の隅っこで訴え続けることかなと思っています。
AnneTyler (アン・タイラー)著作一覧
○ If Morning Ever Comes (1964)
The Tin Can Tree (1965)
○ A Slipping-Down Life (1970) 『スリッピングダウン・ライフ』
○ The Clock Winder (1972) 『時計を巻きにきた少女』
○ Celestial Navigation (1974)
○ Searching For Caleb (1975)
○ Earthly Possessions (1977) 『夢見た旅』
○ Morgan’s Passing (1980) 『モーガンさんの街角』
○ Dinner At The Homesick Restaurant (1982) 『ここがホームシック・レストラン』
○ The Accidental Tourist (1985) 『アクシデンタル・ツーリスト』
○ Breathing Lessons (1988) 『ブリージング・レッスン』
○ Saint Maybe (1991) 『もしかして聖人』
○ Ladder Of Years (1995) 『歳月のはしご』
● A Patchwork Planet (Ballantine Reader’s Circle) (1998) 『パッチワーク・プラネット』
○ Back When We Were Grownups (2001) 『あのころ、私たちはおとなだった』
● The Amateur Marriage (2004) 『結婚のアマチュア』
○ Digging to America (2006)
○ Noah’s Compass (2010) 『ノアの羅針盤』
○ The Beginner’s Goodbye (2012)
○ A Spool of Blue Thread (2015)
Vinegar Girl (Hogarth Shakespeare) (2016)
Clock Dance (2018)
(●○は私的メモ)
Vinegar Girl
2016年のVinegar Girlは、Hogarth Shakespeare(ホガース・シェイクスピア)の企画参加作品。
Kindle版を予約購入したまま読まずに置いていたので、これから読みます。
ホガース・シェイクスピア企画では、著名作家によるシェイクスピア作品の翻案作品が続々出版されています。
アン・タイラーの作品は『じゃじゃ馬ならし』を下敷きに書かれたとのことで、どんなふうに現代向けにアレンジされているのか、楽しみです。原作は女性蔑視の視点に嫌悪感がありましたが、そこはどうなっているのだろう。
ホガース・シェイクスピア企画にはほかに、アトウッドも参加しています。オリジナルは『テンペスト』。
お気に入りのタイラー作品
アクシデンタル・ツーリスト
1985年の全米批評家協会賞を受賞した作品。
1986年のピューリッツァー賞の最終選考に残り、1988年にはウィリアム・ハート、ジーナ・デービス主演で映画化されました。
「アクシデンタル・ツーリスト」とは、主人公の書くビジネスマン向けの旅行ガイド本のタイトル。
行きたくもない場所に旅行しなければならない人向けに、旅先でいかに普段通りの生活をするかを指南する、というガイド本の内容の通り、彼自身も予定外のことが起こる暮らしを徹底して避けようとしています。
「想定外ぜったいイヤ」な人と、「想定外のことしか起こらない人生」を生きている人がぶつかったときに起こる想定外の物語です。
(余談ですが、2012年のThe Beginner’s Goodbyeの主人公も、“Beginner’s Guide” という初心者のためのガイドブックを制作する仕事をしています。設定自体も関連性があり、四半世紀後の著者自身の「アクシデンタル・ツーリスト」への返答ではないかと感じました。 )
夢見た旅
幼馴染と結婚し、自分の生まれた家で暮らす主婦。退屈な毎日にうんざりし、この場所から抜け出したいと夢見ながらも、家族の世話に明け暮れていたある日、銀行強盗の人質となり、逃亡の旅に出ることに。
20代の頃に読みましたが、主人公と同世代になってから読むとまたひとしおです。
『歳月のはしご』も主婦がフラッと家を出てしまう話です。アン・タイラー作品に繰り返し出てくるモチーフ。
この町を出ることがなくても、変わり映えのしない毎日が続いても、人生は旅。
もしかして聖人
読後感は悪くありませんが、私の中でいちばん「読むのがつらい」アン・タイラー作品。
何度も気軽に読み返せる作品ではないのですが、大好きな本のひとつです。
新作・Clock Dance
そしてこちらも、思いがけぬ旅と、人とのつながりがテーマのようです。
楽しみ。
アン・タイラー作品、日本語訳書はほぼ絶版となっているので、ぜひ図書館などで探してみてください。