余秋雨の千年一嘆―古代から現代の文明を思考する 余 秋雨
ひょんなところから私の手元にやってきたこの本。「文化苦旅」をひとまず脇に伏せ、こちらの序文をなんとなしに読んでみたところ、ぐいぐい引き込まれて止まらなくなってしまった。
古代から今日まで綿々と続く、中華文明。かつては燦然と輝き、同じ時代を肩を並べて歩んでいたはずの、もはや廃墟としてしか存在し得ない他の古代文明。
双眼鏡の調整ねじを絞ったり緩めたりするように、著者の視点は自在に瞬間移動する。
中国語の学術書にありがちな、漢字だらけの原語の影響を引きずった堅苦しさもなく、たゆたうようなリズムを持った、日本語がすんなりと身体にしみこんでくる。
飛行機は、夜明けに追いつかれまいとしているかのように夜色を追って飛び続けたため、十数時間完全の漆黒の闇だったが、飛ぶのを止めたかと思うと、夜明けとアテネがいっぺんにやってきた。
「一気に筆を運び、気に入らないところがあっても、整えたり、なぞったりしない中国書法にも」似た、できるだけ手をくわえない状態で発表された著者の文章は、読者をぐっと彼の世界に引き込み、追体験させてくれる。荒涼とした地を行く緊迫感、片時も原稿を手放さず道端にしゃがみ込んでまでペンを握り文を記した著者の息遣いまで聞こえてきそうだ。
古代文明遺跡を巡る旅は、ギリシアから始まり、エジプト、イスラエル・パレスチナ、イラン・イラク、インドを巡り中国へと戻ってくる。
著者と共に旅する、遥かな4万キロの道程。
年末年始の素敵な娯楽になりそうだ。