行ってきました、東アジア文学フォーラム。
北九州市は快晴。
すごい顔ぶれが一堂に会していましたよ。
大きな会場かと思っていたら、意外にこじんまりとしていて、作家さんとの距離がものすごく近かったです。私は聴講席の最前列でしたが、川上未映子さんを間近で見て可愛らしさにポカーン、前列には平野啓一郎さん、キム・エランさんとキム・ヨンスさんもよく見える位置にいらしてドキドキしていました…(ミーハー)
これまでも何度も作家さんの講演を聞きに行ったことはあるのですが、今回は同時通訳を介してのシンポジウムということで、議論の中で言葉や文化の違いから起こるすれ違いや衝突を、皆さんとても丁寧にきちんと掬い上げてそれぞれの解釈をされる、その過程がとても興味深いものでした。
ものを書く人というのはおはなしも上手なのですね…文章も話も下手な私はただもう見とれていました。
そして皆さん、好きな言葉や警句を(おそらくはたくさん)持っていらして、話の流れの中でここぞという時に最適なものをうつくしく提示される。
特に印象深かった言葉を書きとめておきます。自分のメモを見ながら思い出したので、もしかしたら違っているかもしれませんが、私の中で起きた化学反応の結果ということでご了承ください。
高樹のぶ子氏
「愛とはあるよきものに結びつける情念のこと」
殷煕耕(ウン・ヒギョン/은희경)氏
「愛についての幻想が幸福を奪う」
「読者は愛についての解釈を求め、(韓国の小説から)日本の小説へと向かう」
岡田利規氏
「文学–自分が持つものとは別の定義・違う価値観の体験」
金衍洙(キム・ヨンス/김연수)氏
「관심・关心・関心、3つの言語で同じ感じで表されるこの『心ひかれる』という意味を持つ言葉」
金愛爛(キム・エラン/김애란)氏
「言葉が真に透明で何の誤解も解釈もなく伝わるものではないからこそ生まれるものがある」
莫言氏
「感受到的东西远远多于听到的东西」
そうそう、中国側最年少、80后の代表としてちょくちょく発言を求められていた苏德と少しお話をすることができました。(だめもとで事前にメールを送っていたら、お返事をくれたのでした。)
読んだことのある彼女の作品の中で、一番気に入っている「离」を持参して、サインをしてもらったのですが、日本に私の作品を読んでくれている人がいるなんて全然思っていなかった、と、喜んでくれていました。気さくでとても可愛らしいひとでした♪
今回来日した若い作家たちの作品が、もっと日本で紹介されるといいなあと心から思います。中国や韓国の若者たちは日本の小説を通じて等身大の日本を理解したり親近感を感じたりしているだろうに、日本は隣国の「ふつう」に対して無関心すぎるような気がします。
愛の反語は無関心、だとどこかで聞きました。隣人にもっと愛を。文学を通じて。
今回のフォーラム参加者の短編集が出ています。
好きな作家の作品を1篇ずつ購入することができます。
いまは静かな時 韓国現代文学選集
『だれが海辺で気ままに花火を上げるのか』 金愛爛[著] きむふな[訳]
妻に死なれて男手一つで息子を育てる父親に子供が訪ねる。「ねえ、僕はどうやって生まれてきたの」。父は「あの秘密」をうまく語ることができない。法螺話で切り抜けようとする父の、おかしく、あたたかく、切ない振る舞い。
『皆に幸せな新年・ケイケイの名を呼んでみた』 金衍洙[著] きむふな[訳]
大晦日の雪の日、ピアノの調律にやってきた妻の友人と名乗るインド人との不思議なやり取りを描く「皆に幸せな新年」。死んだ年下の恋人の故郷を探す女流作家の行動と当惑を描いた、奇妙な味の「ケイケイの名を呼んでみた」。
『息、悪夢』 金仁淑[著] きむふな[訳]
父は彼に、なぜ死んだ母を許すようにと言ったのだろうか。母は、徴兵忌避者の父との間に生まれた彼を、かつて殺そうとしたのだろうか。彼は本当に生まれてきたのだろうか。父と母の秘密が、次第に彼の想念の中に忍び込む。
『いまは静かな時』 呉貞姫[著] 神谷丹路[訳]
障害を持つ子と職を失った夫との無力で不安な暮らし。めまぐるしく変わる工事現場、変貌する都市で、柔らかな体と繊細な神経を持った若い母親は、出て行ったままの子供を捜してさまよう。が、すでに日は暮れてしまった。
『他人への話しかけ』 殷煕耕[著] 安宇植[訳]
他人と関わりなくシンプルでクールに生きたい僕に、面倒な恋愛ばかりする女が近付いてくる。薄情な男たちに翻弄された彼女が僕と接触する理由は、僕が冷たくて傷つきそうには見えないから。都会に生きる男と女の一断面。
『死海』 李承雨[著] きむふな[訳]
職を失い妻も出て行った私に、古い友人が怪しい投資話を勧める。死海の泥は美容に良い、世界中から客が来る。その開発を一緒にやろうというのだ。執拗な友人の電話を聞きながら、消えた妻の真摯な姿と気持ちを思いやる。
『男の中の男』 李滄東[著] 吉川凪[訳]
1987年の民主化大闘争のなかで、作家の私が出会った一人の男は、思いもかけず変貌していった。地方から出てきた一庶民が、家庭を顧みず世直し運動の闘士に変わっていく様を描いて深い感慨を呼ぶ、哀しくも滑稽な佳篇。
『直線と毒ガス』 林哲佑[著] 神谷丹路[訳]
新聞に漫画を書いていた私は、表現が当局の忌避に触れ連行される。そしてそれがきっかけで直線が描けなくなり、解雇され、同時にどこからともなく充満してくる毒ガスの臭いに悩まされる。私を追い詰めるものの正体は何か。
『葵のようなあなた ほか』 都鍾煥[著] 吉川凪[訳]
死期の迫る恋人に向かって、ともに良く生きようと切々と訴えかける「葵のようなあなた」、子供時代の空想に満ちた豊かな孤独を蘇えらせる散文形式の「誰もいない教室」など、溢れる叙情を美しい情景に載せて詠む9篇の詩。
『あの家の前』 崔 允[著] 吉川凪[訳]
母親の最期を養女のKに看取らせた私は、恐ろしいたくらみを持って接してくるKを避けることができない。今はカメラマンになっている彼女は私を砂漠に誘い出し、油断させて私を捨て去る。読む者の内側にせり上がる恐怖。
『韓国現代文学選集解説 あおい隣りの芝生までの距離』 中沢けい[著]
イリーナの帽子 中国現代文学選集
『イリーナの帽子』 鉄 凝[著] 飯塚容[訳]
飛行機の中でふと目にした子連れの人妻と男のささやかな戯れ、大胆にトイレに消えてゆく二人の男、スタイリッシュな叙述と微笑を誘う比喩を駆使してありふれた日常の断面を鋭く切り取る。あまりにも鮮やかなラストシーン。
『犬について、三篇』 莫 言[著] 立松昇一[訳]
土俗的、神話的な作品を生み出す現代中国の代表的な作家の、諧謔にみちたエッセイ。犬は何でもわかっているが、容易に心の内を明かさず馬鹿な振りをしている。さまざまな犬たちとそれに関わる体験が、苦い笑いを醸し出す。
『賀家堡・塀を作る』 石舒清[著] 水野衛子[訳]
罪深い思いから孫を出家させようとする一族の長老、楊万生の話(「賀家堡」)。一家で果樹園の塀を作っているとき、誤って子供を死なせた男のとった行動とは(「塀を作る」)。回族の生活習慣に題材をとった不思議な味わいの2篇。
『喜怒哀楽』 金 勲[著] 時松史子[訳]
腫瘍の検査のために病院に入った4人の若者たち。それぞれが喜怒哀楽の物語を語り、肉体がぶつかり合う。日本文学から消えて久しい、往年の石原慎太郎を思わせるアクション小説。騒々しくも溌剌とした情感溢れる青春群像。
『西湖詩篇』 盧文麗[著] 佐藤普美子[訳]
「もしもあなたが月ならば 私はあなたを映す深い淵になりたい」。中秋の夜、月光と輝く湖面の天地が溶け合う情景の中に、恋人への思いを詠んだ「三潭印月」など、唐代の漢詩の伝統を思わせる叙景描写に、深い情感を込めた4つの詩篇。
『エマーソンの夜』 蘇 徳[著] 桑島道夫[訳]
エマーソンと名づけた台風の夜に一人の女が独白を始める。父親が汚職に巻き込まれたため、やむを得ず恋人を罪に追いやった女友達の死。私が語るその真相。政治の季節が終わった後、都市生活を享受し始めた人々の倦怠感に彩られた愛。
『中国現代文学選集解説 我らが隣人の日』 島田雅彦[著]
コメント
すべておもしろそうな作品ですね。
全部なんかタイトルがおもしろい!(>特に韓国文学の方)
もっとたくさん本を読んで、「これ、おすすめ!」とか、「私、この作家好きだな」とか言ってみたいです~。
>nikkaさん
そうなんです、タイトルも面白そうだし、原書ならではのおもしろさというか味わいがありそうです。さくさく読めない自分がもどかしくって…
読まれたらまたいろいろ紹介してくださいねー、楽しみにしてます!
韓国編も気になるけど、中国編も気になります。
島田雅彦の解説が・・。
>日本は隣国の「ふつう」に対して無関心すぎるような
そうですよね。ドラマや映画じゃ伝わらないものってありますよね。ドラマや映画が入口でも小説まで目を向ける人が増えるといいですね。
>たまさん
私この後、ほとんど読んだことなかった島田雅彦さんの「悪貨」を読んだけど、すごく面白かったですー。
あのですね、ここだけの話なんですけど、シンポジウムで男前の島田雅彦氏がユーモア発言で会場を沸かせてたんですが、キム・エランさんはピクリとも表情を変えなかったんですよ…壇上だったので緊張してたんですよね…きっとそうですよね…
私もがんばって、韓国の小説を原書ですらっと読めるようになりたいです。