シャドウイング



前記事の「中国語通訳トレーニング講座」で、シャドウイング、サイトラなど、体系的な通訳トレーニング法を知りました。
最近は「シャドウイング」と銘打たれたテキストがたくさんありますが、私はシャドウイングというのは通訳練習あるいは運用能力アップのためのトレーニングの一部分にすぎないと捕らえています。なので、この種の教材の「シャドウイングだけで話せるようになる」という売り文句には少々疑問を感じています。(売り文句はそうでも、実際の内容はそういう主旨でないことも多いですし。)
以下に実践を通して納得できたこと、効果が出にくいと感じたことをそれぞれ書いてみます。
※この記事はとあるブログを拝読したことがきっかけで、(私の場合はこうだなあ)と思い書きはじめました。実践されている方のやりかたを否定しているわけではないので、その点をご理解の上お読みいただければ幸いです。そもそも語学の学習法は十人十色で、他の人には効果がなくても自分にはある、その反対もよくあることですので。
・シャドウイングは筋力トレーニング
口を動かし、日本語では使わない口の筋肉を鍛えることが目的。
・シャドウイングは音感を養う訓練
数秒後からついていくことで、イントネーションやアクセント、リズム感を養う。
→全く意味がわからない状態で音だけをとっていくという人もいるし、内容・文法全て把握した状態で行うという人もいる。
・シャドウイングは通訳練習の一部
シャドウイングは通訳練習において、オーバーラッピング(全く同時に発声)・リプロダクション(1センテンスごとに止めて繰り返す)への(必要不可欠な)通過点。
・ディクテーションのかわりにはなりにくい
内容を知らない状態でのシャドウイングは結構な負荷がかかるので、ディクテーションと同じような効果が上がるかと思ってやってみたけれど、かけた時間の割には効果が上がりませんでした。ディクテーション的な要素は取り入れない方がシャドウイング本来のよさが出そう。
1.まっさらの状態で何度かシャドウイング→わからない単語をスクリプトでチェック→再度シャドウイング
2.ディクテーションでわからない部分を炙り出す→シャドウイング・音読
2つのやり方で試してみたところ、2の方が定着率がいいようです。書く方が頭に残りやすいタイプのせいか、2の方が副詞や助詞の用法など、文章構造の細かい部分に気を配れました。
・「シャドウイングができる=文中に含まれる語彙を使える」、は等しくない。
たとえば小説で、内容を理解し、且つ字を追いながら正しい発音で読み上げることができても、文中に出てくる語彙全てが「使えるレベル」にあるわけではありません(ただいま痛感中)。シャドウイング学習でもそれと同じ現象が起きました。「使えるレベル」にあるかどうかを判定するのは難しいけれど、まとまった量のリプロダクションをしてみると少しはわかるかもしれません。原文を見ずに、内容を再現してみる。まとまった文章はもちろん、ワンセンテンスでも意外にできないことがあります。
これはディクテーションでも同じこと。聞けて書けてもフリートーキングで使えるとは限りません。
中級以降の学習というのは、聞いて(読んで)わかるレベルの単語を使えるレベルに引き上げることが主軸になってきます(chstdさんのブログが参考になります)。スピーキング力というのは、瞬時に反応できるチャンクをどのくらい蓄積・維持できるかということにかかってくるので、その部分はシャドウイングだけでは効果的に鍛えられないような気がします。
知識として得た語句を「使えるレベル」にするために重要なのは、さまざまな語を組み合わせたセットの数です。そのためには結局、辞書をこまめに引いて例文に多く当たること、難解な語彙よりも、使えそうで使えない搭配がないかどうか常にアンテナを張ること、ではないかと思います。まだまだ試行錯誤中ですが…。
「瞬訳中国語」を書店でぱらぱらとめくってみると、中→日は問題なくても、日→中だと意外に出てこないフレーズが結構あって焦ります。語学学習はほんとに奥が深いです。
・シャドウイングは音読パッケージの中で
というわけで、私がどのようにシャドウイングを導入しているかというと、現在のところは英語上達完全マップの音読パッケージというトレーニングの中だけでです。このトレーニング法でも、実はシャドウイングは主要なメニューではありません。むしろテキストを見ながらの音読やリピーティングの方が重視されています。シャドウイングは、そのメニューをこなした後、素材を十分噛み砕いてこなれた状態にしてからで、回数も全体の10~20%です。
とはいえ、なかなかテキストと首っ引きで音読する時間は取れないので、実際にはほとんどテキストを見ないでのリピーティング・シャドウイングになってしまいます。この場合でも、音読パッケージの原則である「音読素材の文章構造や単語の意味をしっかり把握した状態」から始めないとやはり効果が上がらないようです。
ちなみに、この英語上達完全マップのトレーニング法、韓国語でも実践中ですが、韓国語の音読では、中国語になかった要素が加わって、かなり苦戦しています。
まずは独特のprosody。声調記号のある中国語が懐かしくなりました~。発音よりもこの抑揚の方が難しく感じます。
それからバラエティにとんだ文末表現。「~じゃないですか」とか、「でしたよね」とか、日本語を棚に上げて、英語や中国語にはそんな複雑な文末表現なかった~!と叫びたくなってしまいます。
…しかし、ストイックな語学学習をよくまあ今まで続けてこれたなあと自分でも感心するやら呆れるやら。半分は、留学にかけた時間と資金をムダにしたくないからというケチな料簡でレベル維持を目指していますが…。

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コメント

  1. 八妹 より:

    参考になる記事をありがとうございました。Marieさんはもう(私などから見たら)十分に運用能力を備えていらっしゃるのでしょうに、たゆみなく向上を目指される姿勢に、本当に頭が下がります。
    私もここ1年ほどシャドウイングを続けていますが、最近はただ聞こえた音を繰り返すだけで、頭に入らなくても真似ができるようになる、というだけのような気がしているところです。スピーキング力向上にはある程度までは有効かと思いますが、そこから先はまた別の方法が必要なようですね。
    私の場合、鳳凰衛視の「鏘鏘三人行」を一度放送時間に見て、二、三日後にネットに上がったものを使ってシャドウイング、という具合です。使える語彙を増やすことより、むしろ自然な会話での「我跟?講」といった言い回し、それから言いよどみや停頓も含めたリズムを体得するもの、と割り切るようにしています(のでスクリプトも文語調の引用などを除いてほとんど見ません)。シャドウイングに使うには難しすぎる教材とは思いますが、各地のスピーカーによる色々な中国語を真似するのが楽しくて。
    本当は復述も取り入れる方がいいのでしょうけれど、なかなか時間の配分が難しいです。

  2. Marie より:

    >八妹さん
    お久しぶりです。子連れ韓国で若干冷たい仕打ちをくらったので、シャングリラの記事に思わずグチコメントを残しそうになりました。
    十分な運用能力なんて、とんでもないですよ~。読み物すら難しいものはお手上げです。
    「頭に入らなくても真似ができるようになる」というのはまさにその通りで、シャドウイングというのは音を真似ることに集中するのが理想的ではないかと思ったりもします。そこにいろいろ付加価値をつけようとすると、全体の効果が落ちてしまうような気がするのです。
    鏘鏘三人行をシャドウイングとは…猛者ですね。私は耳すらついていかないかもしれません~。言い回しとリズムの体得、やっぱりそこですね。
    やりたいことはあっても、全部をコンスタントに続けるのは難しいので、結局自分にあった、自分が好きな方法をこつこつ続けるのがいいんでしょうね。

  3. nikka より:

    こんなにシャドーイングについて語れるっていうのが、すばらしいです!!
    私は性格的に(?)知らない単語をそのままにして聞き続けるというのができない(>苦痛です)なので、やっぱり先に内容を理解してからのほうが落ち着きます。
    それから、やっぱり「知っている」ことと、「使える」ことの間には、深~い溝がありますね。
    最近は「使えない」ことに劣等感をもたないようにしています。
    使う努力をしているうちに、ある日、突然のように「使える」ようになるから、焦らずやるようにしています。
    逆にいえば、「使えない」=「実はよくわかっていない」ってことなので、繰り返し勉強することでしか克服できないような気がします。

  4. Marie より:

    >nikkaさん
    >知らない単語をそのままにして聞き続けるというのができない
    それならきっと辞書引きを制限するタイプの多読も苦手なのでは?私は適当な性格が幸いして、多読はわりと平気なんですが、内容がわからないもののリスニングは苦手です~。
    使えないことに劣等感を持たない、確かにそれは大事かもしれません!!
    私も「読めるけど喋れない」のですが、少なくとも「読めないし喋れない」よりはいい位置にいると思って、焦りすぎないようにしています。
    一度に完璧にしようと思わないで、繰り返すことが大切なんでしょうね。続けようと思うと、つい負荷の小さい勉強法を優先してしまうのですが、やはりある程度負荷がかからないと、脳もがんばってくれないのかなあと思います。

  5. Shira より:

    こんにちは。
    さすが Marie さん、感じかたが豊かで、それを上手に伝えてくれた気がします。
    シャドウィングでいちばん鍛えられるのは「速度を上げてもひっかからずに言えるようになる」という能力のように思います。伝えることを中国語で組み立てる練習にはなりにくい。
    ちょっと意地悪に言うと、
    「右の耳から入って左の耳から出て行く」
    ような感じもします。
    ただ、なめらかにストレスなく発声器官を使えるようになる恩恵はかなり大きいので過小評価は禁物だと思います。「口に乗りやすい」と、どんな学習方法にとっても大きな助けになり、効率が上がるでしょうね。

  6. hachi より:

    同感です~。
    シャドウイングについては、ある程度の速さで言う筋力をつけること、音に対する反応を良くするという目的でやっていたことがありますが、私も意味が分からない文章をただシャドウイングすることはできないので、目的を割り切ったり、スクリプトがどうしても見れない環境のときしかやってないです。
    私の勉強はもっぱら、中身をちゃんと理解してからの音読ばかりなんですけどね^^
    どんな学習方法でも、ただ人が言うのを鵜呑みにするんじゃんなくて、常に自分にとって必要かどうか検証しながらやる意識って必要ですよね。ときどき忘れてしまいますが・・・

  7. XiaoQ より:

    ちょうどシャドウイングと音読に重点をおく学習方法を試してるところなので、とてもタイムリーで参考になりました、ありがとうございます。
    フリートーキングとシャドウイングはわりと得意なんですが、リプロダクションがさっぱりです。勝手に自分の知ってる単語に置き換えてしまうんですよね・・・記憶力の問題なんでしょうか、それとも性格に問題が・・・?

  8. Marie より:

    >Shiraさん
    「右の耳から入って左の耳から出て行く」はまさに私の状態です。条件反射的についていけるんですが、ふと気づくと頭の方は全然働いていないという。
    口に乗りやすくすることは大切ですね。音の流れを覚えているから口をついて出てくるフレーズは確かにあります。ただこれも、意味や文章構造をしっかり把握していないと効果は出づらいですよね。リピーティングや音読で足場を固めた後の仕上げ作業という感じもします。
    >hachiさん
    hachiさんも内容把握後の音読なんですね。私は音読もシャドウイングも、気がつくと口だけ動いていて、頭が空っぽ、ということが多いのです。きっと集中力が足りないんですね。こういうタイプは特にシャドウイングの用い方に注意しないといけないのかも。
    >XiaoQさん
    フリートーキングが得意というのは素晴らしいと思います。限られた語彙の中でありとあらゆる手を使って自分の思いを表現できるってことですよね。言いたい日本語に該当する文法構文が見つからなくて何も言葉が出ない、というタイプの人が結構多いと思うので、それはXiaoQさんの強みですね!!
    リプロダクションして、知ってる単語に置き換えてしまった知らない単語を使って、いろんなタイプの例文をこれでもかこれでもかと作ってみてはいかがでしょう。電車で一度会った人の顔はおぼえられませんが、毎日会ってたり、違う場所で偶然会ったりしたら覚えちゃいますよね。
    私もただいま韓国語で、例文ノートを作成中です。

  9. akira より:

    > シャドウイングというのは通訳練習あるいは運用能力アップのためのトレーニングの一部分にすぎない
    私はこれに全く同感で、まるで万能の語学学習法のように宣伝するのは問題だと思っています。
    思うのですが、シャドウイングの要点は、「自分の声を聞かない練習」ではないでしょうか?自分の声を聞くと、元の声が聞こえませんから。そう考えるとシャドウイングは、通訳者など既に正しい発音が完成された人のための上級者の練習法で、取り扱い注意な学習法だと感じています。
    会話では相手の言葉をそのままオウム返しにするのは重要な技法ですし、通訳ではまず相手の語彙を脳に保留しないと通訳はできませんから、シャドウイングで保留能力を高める、すなわち純粋に通訳者のための技術訓練だと思うのです。

  10. Marie より:

    >akiraさん
    おっしゃるとおりです。シャドウイングは有効な訓練ですが、万能ではないということです。
    発音に関しても、イヤホンを耳に突っ込んで原音を聞きながら自分の声を録音するくらいの意気込みでやらなければ、発音がよくなることはないのではないかと思います。
    ちょっとやっただけで口のまわりがものすごく疲れるし、勉強したつもりにはなれるんですけど、思っていたほどの効果はなかった、となるともったいないですもんね。社会人の勉強は常に効率化を図らねば。